包丁を押し当てて、押し当てて押し当てて。

料理をする人やリストカッターケンイチくんならわかると思うけど、包丁を押し当てるだけでは、ものは切れない。重力方向に力を入れても切れない。水平方向に押すか引くかして初めて切れるのだ。柔らかくて大事な部分に包丁を当てたとて、グッと押し当てたとて、押し引きさえしなければ、皮が破れ、血が流れることはない。

以前私がハマっていた表現に、「包丁を振り回す」というのがある。社会や人に影響を与えたり、言葉を投げかけたり、とにかく何らかのアクションを起こすのはおこがましいことで、本来はすべきでないことである、あるいは細心の注意を払う必要がある。そういう風に考えていたのだろう。いずれも意味がちょっと良くわからないけど昔の私はこんなことを言っている。包丁好きだった。



マシンガンを街なかで構えていた人間ではあるが、とにかくアクションを起こすことを忌避していたのだけれど、最近はそうでもないかもしれないと信じられるようになってきた。ひとまず、包丁を押し当てるような感覚で生きていこうと思うし、読む人に包丁を押し当てるブログを書いていこうと思っている。包丁を振り回すよりも、懐に忍ばせ続けるよりも、それは藝のあることだと思う。

座れば官軍立てば賊軍,電車戦争が私の頭のなかで勃発しています

最近,毎日電車に乗っている。なにもわざわざ言うほどではないだろう,新幹線ならまだしも,電車などごくありふれた交通手段ではないか,と多くの人は思われるだろう。ただ,京都に住み京都の学校に通っていた私にとっては,毎日電車に乗るなんてことは考えられなかった。ここ数年,大阪に行く時や旅行するとき,つまり特別な用事がある場合にのみ乗っていなかったのだけれど,大阪に住み京都の学校に通うようになって,乗る機会が増えた。久しぶりに日常的に電車に乗って思うことがある。繰り返すことで,無意識に行動することで見えてくるのだなあ。ルーティーンは偉大である。

気付いたのは,立つと座るじゃ大違いだということだ。座れれば官軍となる。パーソナルスペースを確保し,本を読んで時にはうとうとしながら目的地に向かう。カバンは膝の上で,多少隣に気を使えば上着を脱いで体温を調節することもできる。立ちっぱなしでまだかまだかと到着を待ちわびる急いた気分を思うと,座席は天国そのもので,目的地がゆっくりと訪ねてくれる気分でさえある。一方で,立てば賊軍である。すし詰めになり,暑くて臭くてどうしようもない状態で揺られると朝からやる気が二段階下がるし,長時間立ち続けることが毎日続けば体力の面からも辛いものがある。そして,移動時間が長ければ長いほどその差は顕著になる。一時間弱の移動をどう過ごすことになるか,天国と地獄を決める境界線であるのだから,当然乗車時にはみんな殺伐としているように見える。列車の到着ベルが鳴り,ホームの人々が身体を強張らせる様子は戦争前夜の様相を呈す。

しかし,実際の戦争でもそうだったように,座席取りの争いに於いては全ての兵士が前線で命のやり取りをするわけではない。駅によって差はあれど,もっとも激しいうねりのような戦いに巻き込まれるのは,待機列の中盤に並んでいる人々である。最前列で列車を待つ人々は電車がすでに満席でない限り(そして私の使う駅ではそれはほとんどない)座ることができる。彼らは金持ち喧嘩せず,と言わんばかりの姿勢で悠々と空席を埋めていく。珈琲の入った紙コップを持つ余裕がある人もいる。また,列車が到着する直前に列に加わった後列の人々も戦いには参加しない。どうやっても席に着けないのを知っているためである。何の因果か生まれた時から地獄行きのようなもので,往々にして彼らはドア付近というある種の安全圏に避難するが,ドア付近の攻防というのは最後に乗り込んだものがこれを制するという仕組みになっているので,押し合いへし合いというよりは譲り合いになる。譲りあうことで快適度の高いスペースを取り合う。

このように,列の前側の人々は珈琲をすすり,列の後ろ側の人々はニコニコと席を譲り合う中で中間層だけが目の奥ををギラつかせながらストレッチを行い,決戦に備える。心技体を問われる大一番である。毎朝このような争いに巻き込まれながら,非常に良い経験をさせてもらっているなと思う。それは,日々,何度も勝ったり負けたりを繰り返すことである。今朝は官軍だったかと思えば帰りは負けて賊軍になるし,登校時間を調整して官軍の日々が続いても,日によっては負けてしまう。勝敗という2つの真逆な状態を行ったり来たりすることで,現状と逆側のことを考える機会が増える。立っている時にこそ,座った時の安堵,達成感,申し訳なさや快適さを思い出し,そして座った時には,立っている時に周りの善良な市民がぬくぬくと座っているのを見て心が呪詛の言葉で埋め尽くされるのを思い出す。そうして,過去の自分を見つめていると,周りの他人についても見えてくるようになる。過去の自分というのは少なくとも今の自分よりは他人に近い存在なのだから。

人生は,一時間弱を立って過ごすか座って過ごすか,などとは比べ物にならないほど大きな勝負の連続である。公平に競争が出来ればまだ良い方で,中には自分の力ではどうにもならない,運次第の勝負だってあるし,勝ち負けではなくただコインの裏表のように,ただ偶然によって二つのグループのうちいずれかに振り分けられることもある。勝負というよりも選択,二項対立のうち片方を選択するといった方が適切なのかもしれない。そしてその勝ちと負け,あるいは裏と表の隔たりは大きく,容易に行き来できるものではない。例えば生まれた国や親や時代は一生変わらず,その差は人生のあらゆるところで表れるだろう。また,カニが好きな人がカニを嫌いになることはあまり考えられないし,高校時代恋人がいた人は高校時代恋人がいなかった人になることはない。そしてそれらは厳然と区別される。

生きることは選ぶことであり,選ぶことは対立することである。対立の虚しさから自らを解き放つ方法として,「対立を一旦棚上げしておく」という手段しか私は持たなかった。対立はしている,だからなに?という姿勢だ。対立相手の気持ちになろう,よか対立相手のことを知ろう,というのも広い意味では同じなのではないか。ある対立に囚われていることに気付き,それを鼻で笑おう,というような。そういう意味で,重要度が低く,取るに足らないことではあるが,電車での立つ・座るという二つの状態を日々遷移できていることは,ごくごく小さくはあれど精神の旅で,何か発見があるのではないかと考えている。などということで頭をいっぱいにしながら電車に乗ろうとしていると,肩を叩かれた。どうやら順番を抜かしてしまっていたようで,完全に頭に血が上った集団に簀巻きにされ,網棚に放置されてしまった。というわけで遺失物としてJR奈良駅に居る。そんな連休最終日。

2014年,知識も素養も筋力も経験も無いこーしーがよく聞いた曲10選


(アルバム10選はこちら。合わせてお読みください。)


2014年によく聞いた音楽を挙げたい。1曲単位で聞いていたものから10個。音楽的にどうのこうのを語る知識も素養も筋力も経験もないので,自分がいかにして出会ったかと単なる感想,どういうときに聞きたくなるか,などに留める。本当は,読んだだけで聞いてみたくなるような藝のある評が書きたいのだけれど。CDを買ったわけではない曲もあり,お金を出していないのに順位をつけるというのもおこがましいので順番は適当です。(感想はええんかい)


岡村靖幸 w 小出祐介『愛はおしゃれじゃない』

とにかくカッコ良い。youtubeのこの動画の小出さんが入ってくる箇所がカッコ良すぎてBBBの音源を聞き直したくらい。2014年は,岡村靖幸の活動が活発で良い年だったように思う。


でんぱ組.Inc 『サクラあっぱれーしょん』

ドラマ「最高の離婚」で出演しているなあと思いつつ音源を聞くことはなかったのだけど,オザケンをカバーしてるのか,かせきさいだぁが曲を提供してるのか,などがフックになり今年初めて聞いたらはまってしまった。この曲が中毒性があって好き。キャッチーなフレーズがわかりやすくて,ずっとサビみたいである。今年の曲に限らなければ一番好きなのは『なんてたってシャングリラ』である。


むせいらん『む謝ラップ』

ピコピコ電子音が圧倒的に心地よい。今年聞いた中で最もピコピコしていて好き。歌っている若い人たちのことはほとんど知らないけど,あまりギラギラしていないのも良い。(知らないからなのかもしれないが)


水曜日のカンパネラ『モスラ

気の利いたことをテンポよく浴びせられる心地よさがあって,音楽そのものの扇情性やPVの美しさは素晴らしいし,ボーカルの個性にも器量にも文句なし。ただ,どの曲も同じに聞こえるのでこれから広がっていくかと言われると難しい。ライブに行くとどんな感じになるのかな,というのは気になる。


柴田聡子『いきすぎた友達』


どついたるねん『静かなるドン』のMVで出会う。誰なんだこの子は!という強烈なインパクトがあったんだなあ。


禁断の多数決『透明感』


supercar感があるとコメント欄で言われまくっていて面白い。日本語なのに日本語に聞こえない間奏部分が耳にこびりついて離れなかった時期があった。

レキシ『キラキラ武士』


2014年に知ったわけではないが,本当に何度もリピートしたので。楽しい。


ペトロールズ『Profile』


フェスの映像で知る。『雨』が実は同居人がずっと弾いていた曲だということがわかって,「お前だったのか!」みたいになった。ごんぎつね状態である。

片想い『踊る理由』


楽しい。音源はここ数年出していないようだが,ライブはやっているようなのでぜひ行きたい。


ナカノイズ『ツキワケ/ハクジツ』

5年ほど前にニコニコ動画で活動していたキーゲイザーさんはある時姿を消し,音源もそのほとんどが聞けなくなってしまったのだけれど,今年ふと検索したらnakanoiseとして見事に復活していた。お江戸の方ではライブをやっているようで,これは観に行かないとな,と思っている。歌...半音低い...という感じではあるが,透明感のあるギターの音は相変わらず健在。

2014年,知識も素養も筋力も経験も無いこーしーがよく聞いたアルバム10選

2014年によく聞いた音楽を挙げたい。アルバム単位で聞いていたものもあれば,1曲単位で聞いていたものもあるのでそれぞれ10個ずつ。音楽的にどうのこうのを語る知識も素養も筋力も経験もないので,自分がいかにして出会ったかと単なる感想,どういうときに聞きたくなるか,などに留める。本当は,読んだだけで聞いてみたくなるような藝のある評が書きたいのだけれど。順番は良かった順に並べた。

1位:きのこ帝国 『フェイクワールドワンダーランド』

フェイクワールドワンダーランド

きのこに縁のある一年だったので,ジャケ買いならぬ名前買いだったのだけれどこれが本当に良かった。遡って聞くといわゆるシューゲイザーで,細い人がうっとりとギターを弾いてボーカルが暗めの歌詞を低めで囁くというような曲なのだが,このアルバムを聞いて,そこから脱皮しつつあるのがはっきりとわかった。『クロノスタシス』が一番好きで,夜中に研究室を抜けだして散歩しながら聞いていた。(こう書くと研究室に変われてる人造人間みたいだなあ)PVを観て再び恋に落ちた。何度聞いたかわからない。ボーカルの女性が以前役者さんをやっていたらしいと聞いて,なるほど〜と思った。


2位:Lamp 『ゆめ』

ゆめ

重層的かつ心地よいおしゃれが過ぎるサウンドと,ライブよりレコーディングと言い切るしゃんとした背筋を持ち合わせたバンドで,ちょっと次元が違う質の高さだなと思った。夏目漱石っぽさがある。まずさざ波のように「上手いなあ」が来て,次に「良いなあ」の大波が来る感じ。落ち着いた天気の昼下がり,アルバムをまるごと聞きながらひとりで散歩をするのが一つの楽しみである。


3位:KIRINJI『11』

11(初回限定盤)(DVD付)

熱心なファンでない私にとって,弟が脱退しキリンジ→KIRINJIになったことも衝撃的だったのだが,それ以上に新メンバーにコトリンゴの名前があったことも衝撃だった。これまでも厚みがあって聞く人を包み込むような音作りだったと思うが,より若くハツラツとした演奏のもとで聞ける。大きくメンバーチェンジし,弟と袂を分かったアルバムの一曲目に,必ず生きて還ろうという歌詞の『進水式』をもってくるあたり,まっすぐな人だなあ,と思う。




4位:cero『Yellow Magus』

Yellow Magus(DVD付)

メロディもリズムもかっこいい。音の厚みがあり,聴きやすくもある。『Orphans』よりもこちらのほうが唯一無二な気がしたので『Yellow Magus』を採った。夜に聞きたい。


5位:王舟『Wang』

Wang

優しい声と優しい演奏。動画は『new song』です。この森の音楽会的な温かいアンサンブルといったら!私は『瞬間』が一番好き。休みの日,お気に入りの器でカレーを食べながら聞きたい。


6位:どついたるねん

どついたるねん BEST HITS

むちゃくちゃ面白い。PVもこの動画も最高だった。ひとりでこそこそ楽しみたいバンド。ライブにも行ってみたい。



7位:モーモールルギャバン『モーモールル・℃・ギャバーノ』

モーモールル・℃・ギャバーノ

ちょうどこのミニアルバムを出した際にライブ出演を無期限休止したそうで,今後出すアルバムへの期待が膨らむと同時に,多少無理してでも観に行っておくべきだったなと反省しているところです。変な歌詞でものすごい歌い出しなのにもかかわらず泣かせるバラードだったり,歌詞もテンションもおかしい曲だったり,いずれにせよ下品なんだけれど嫌じゃない。ゲイリーさん,本当に徳が高くて好きだ。Key, Voのユコさんがかわいいのにかわいさを全面的に押し出さないあたりも好き。ゲスの極みのPVのあざとさといったらなあ。



8位:how to count one to ten『Method of slow motion』

Method of slow motion

初めて聞いた時,どんな映像のBGMにでもなるだろうなと思った。何にでも合うシンプルなアンサンブルと,このまま消えてどこかに行ってしまいかねない心地よさがある。どこか数学とか科学のかおりがするのはなぜだろうとかんがえてみると,メロディらしいメロディはなく,何本ものギターがただ幾何学的に折り重なるのみ,という冷静さによるものだろう。『mathematics;re』という実験的な曲もよかった。冷静かつポイントを抑えたBGMと落語家による講談とのマッシュアップ伊集院光深夜の馬鹿力が好きだったり,ZAZEN BOYSが好きだったりする人は絶対気に入るはず。



9位:ORGE YOU ASSHOLE『ペーパークラフト

ペーパークラフト【初回限定盤】(1CD+カセット)

印象的なリフレインと気だるさに満ちた声というデビュー以来変わらぬ魅力は相変わらず,狙いは変えていないのだろうがメロディが洗練されていて,良くなっているなと思う。『ムダがないって素晴らしい』が気だるくて仙人を思い出すので好き。パーカッションのせいだろうか。仙人って仙人だからすごいのだろうけど,一見ヒゲが汚いしまともじゃないからバイトの面接とか落ちそうじゃないですか,そういう感じ。汚い和室で朝まで飲みながら聞きたい。ネコ穴のことなんだけど。



10位:Shiggy Jr. 『LISTEN TO THE MUSIC』

LISTEN TO THE MUSIC

声が圧倒的に素敵。ヘラヘラしてて底抜けに明るいのが最高に良い。PVをみるに多分仲良くはなれないけれど,それでいい。少し落ち着いた『baby I love you』が好き。これからもヘラヘラと彼岸で踊っていて欲しい。それを漏れ聞いていたい。



長くなったので分けます。

2015年やりたいことが26個もあったりなんかする

今年やりたいことを再び書いた。今年やったことをなんか無理やり当てはめて振り返って、よい一年だったなとニコニコするための布石を置いた。頭を使わずに。xは思いつかなかった。

abandon
bulldozer
circuit
deny
era
four-frames
gift
hack
illusion
journey
keep
literal
mine
narrative
optimistic
proposal
quantity
rhetoric
stand
teach
urge
vision
weird
x-ray
yield
zoo

明日は勉強中のフランス語でやりたいところだけど、26個も思いつけないので去年聞いた音楽なんかをつらつら挙げていこうと思う。今更ながら。